[ ボクたちの願い:2 ] 「ライン、お願いしていい?」 「何だ、急に。」 「いいから。ボクから3つのお願い。 決まったら言うね。」 「俺がランプの精か。」 「うん。ダメ?」 「いいぞ、何でも叶えてやる。」 「あ、明らかに無理なのは言わないからね。 じゃ、まずは……。」 二人で久しぶりに遊園地に。 ケイは嬉しそうだ。 「せっかくの3つの願いの一つが、 これでいいのか?」 「うん、最近あまり遊びに行けなかったし。 ラインと、ここに来たかったから。」 俺の方へ振り向いてから、ケイが笑う。 「似合ってるよ、ライン。」 「……恥ずかしいだけだ。」 ウサギの耳を付けた俺の腕に、 ケイが抱き付く。 「ねぇ、ライン。写真撮ろ?」 「あ、あぁ。」 腕を引かれるままに写真館へ。衣装もケイが選んだ。 「じゃ、笑ってくださいね、お二方お似合いですよ。」 「なっ!!」 写真は、顔を真っ赤にした俺と、 楽しそうに笑ったケイのタキシード姿になった。 「ライン、ご飯は何にしよっか。」 「仰せのままに。」 「ん〜、じゃあラインの手料理。」 「……いつもと変わらないぞ?」 「うん。ボクの好きなのなら何でもいいよ。」 「なら、豪華にするか。」 「あ。これは、お願いじゃないからね。」 「2つ、何か願いたい事があると。」 「……うん。」 ニコッと笑ってケイが言う。 確かに最近は時間もなくて、 凝った料理を作ってなかったし、 言われて嫌なものでもないから、言われた通りに。 少々待たせてしまったが、いろいろ作ってみた。 「こんなに食べれないよ。」 「明日食えばいいだろ。」 「……そう、だね。いっただきまーす。」 † 数日後、ケイが倒れた。 医者に診せたら、入院が必要だという。 「ケイ、大丈夫か?」 「うん。お医者さんが心配しすぎなんだよ。 ボクは大丈夫なのに。」 「まぁ、言われたんだし、安静にしてろよ?」 「……ライン、今日はもう帰る?」 少し不安げな瞳に、俺はくしゃくしゃっと頭を撫でて。 「付添い人は泊まれないんだとさ。じゃ、また明日な。」 「ちぇっ。」 つまらなそうなケイを置いて自宅に帰る。 「……こんなに家って、広かったんだな。」 一人呟いて電気を付ける。 夕食は、てきとうでいいか。 ケイが一緒じゃないなら。 ケイが食べないなら、美味しく作る意味もない。 さっさと済ませて俺は寝る。 それから、ベッドの上でケイは、 だんだんと痩せてきた。 薬もいろいろ飲んでいたが、 あまりよくならないようだ。 「ライン、こっそり外に出て散歩しない?」 「……安静にしないとな。」 たまに、口喧嘩になる事もあった。 お互いにストレスが溜まってたんだと思う。 「ライン。お願い、覚えてる?」 不意にケイに言われた。 「……あぁ。」 「じゃあ、二つ目のお願い。」 ケイは体を起こし、しっかりと俺を見つめて。 「ボクを、抱いて。」 「……。」 「怒るのは分かってる。 だけど、ボクにはもう時間がないから。」 「やめろよ、そんな言い方。 俺はお前が居ないと……。」 我慢してた涙が溢れる。 代われるなら、代わってやりたい。 俺の願いは、ただそれだけだった。 † 「……ケイさんは、もってあと、 数日の命でしょう。」 時として、医者は残酷な生き物だと思う。 事実を、事実として伝える事が。 「ボク、もう永くはないんでしょ?」 医者の話を伝えられずにケイの部屋に戻った。 「……分かってたんだ、ボク。ずっと前から。」 傍にある椅子に座った俺の頭を、優しくケイが撫でる。 「ライン、黙っててごめんね。」 ぎこちなく体を捻って、ケイは俺の唇を奪う。 「久しぶり、かな。ラインにキスするの。」 「……ばかやろう。」 「ライン、シよう?」 俺は、こんなに寂しそうな顔のケイを、 一人に出来なかった。 その夜、個室部屋の明かりは、朝まで消えなかった。