[ 草の匂い:3 (♂ x ♂) ] あいつとの出会いは、 大雨警報が出ていた、寒い真夜中。 俺はいつものように仕事をして、 テレビ局とファンに愛想笑いした帰り道だった。 「ん、なんだ?あれ。 マネージャー、ちょっと止めて。」 「どうした?」 「あれ、人……だよね。」 俺が指差した先には、 雨の中で座り込んだ人影。 長く居たらしいと思われる、 ずぶ濡れの服を着たまま、 車のライトの方を向いた後、また目を瞑った。 「……ほっとくのも危ないな。 シン、病院に連れてくぞ。」 「あったりまえじゃん。」 病院に連れて行き、しばらく待つと、 処置を終えた医師が戻ってくる。 「ひどく衰弱してましたよ。 あなた方は、あの方の……?」 「たまたま通り掛かっただけ。」 「そう、ですか。」 「さて、人助けも済んだことだし。行くぞ、シン。」 「……あぁ。」 次の日、警察からマネージャーに連絡が入った。 「あぁ、昨日の奴の話ですか。 シンはあいにく本番中ですので、 後ほど伝えておき……え?」 『Sunshine song 君の瞳に映るボク Happiness song 君が居てくれたから 空に舞って 野を駆けて ボクは歌い続ける みんなのために 君のために こんな気持ちになれるのは きっと、君のことが――』 「シン、お疲れさん。」 「あいよ。」 「昨日の奴、起きたってさ。 お礼したいんだとか。」 「ふーん。まぁ、行くだけ行こっか。」 病院に着くと、まだ寝たきりのあいつが居た。 「……ありがとうございます。」 「何はともあれ、無事で良かったです。 あんなところで、何をしてたんですか?」 「……ある人を、待っていました。」 「そうですか。じゃあその方に連絡しないとで……。」 「しなくていいです。」 「何故?」 「もう、誰も居ないから。」 それを聞いて、昔の俺を思い出す。 周りからもてはやされて、自分も浮かれてて。 気づいたら、心を許せる相手なんて、誰もいなかった。 親でさえ、俺を"商品"として扱っていた。 俺は、独りだった。 そいつの目は、その時の俺と同じ冷たさを持っていた。 「……名前は?」 「ガク。」 「ガクか。マネージャー、 こいつウチに連れてっていい?」 「……はぁ!?」 「行くとこないみたいだし。」 「シンが言い始めたら、 こっちが折れないと終わらないのは、 分かってるんだが。マスコミに見つかったら、マズいぞ?」 「んー、弟ってことで。」 「似てないのにか?」 「腹違いとか、何か適当に。」 「……シンさん、ボクは行くと言ってないですが。」 「俺が決めたんだから、いいの。 じゃ、これからよろしく、ガク。」 そして、半ば強引に握手し、 ガクと暮らすのを決めたのだった。 今思えば、昔の自分への償いだったのかもしれない。