[ 草の匂い:6 (♂ x ♂) ] 「……着いたぞ。」 夕焼け色に染まる空と、 草原の静かな音色が聞こえる場所に、 俺たちは到着した。 「あの時と、何にも変わってないね。」 「そうだな。」 車から降りて、二人で思い出の場所へ歩く。 「ここ、だよね。」 「あぁ、ここだ。」 立ち位置もあの時のままにする。 「シン、来たら分かるって、何が?」 「それは……。」 少しだけ風が強くなり、 無意識にガクを抱き寄せる。 「……シン?」 「今日は、ちょうどあの時から一年目なんだよ。」 「そっか。あれからもう一年かぁ……。」 「だから、どうしても来たかったんだ。 同じ時間に、同じように。」 少しだけ抱き寄せてる腕に力が入る。 「ガク。俺たちさ、ここの草の匂いみたいに、 いつまでも変わらずに、一緒に居ような。」 「……うん。草の匂いと比べられるのは、少し癪だけどね。」 風が静かになったので、ガクを俺の方へ向ける。 「俺は君が好きだ。だから、 これからも俺のそばに居てくれないか?」 「……うん、いいよ。」 ガクが笑って答える。 「あの時に歌った歌、覚えてるか?」 「うん。シンのベストセラーだしね。」 二人で歌を口ずさむ。 『まどろみの中、君を見つめる 君は無防備で、幸せそうに眠ったまま 君の夢に、俺は居るのかな 楽しい夢を見れているのかな 頭を撫でて俺は行く 明日のために 君と居るために 夕焼け空を君と見つめる 君は俺に抱かれたまま 俺は君に必要とされてるのかな 君の一部になれてるのかな たとえ、 これから先が 闇に覆われようと これから先に 茨の道があろうと 君を守る為に 俺は走り続ける』 「……全く、あんなに大声だしてたら、 ここも何れバレるぞ? まぁ、好きなようにやらせてやるか。」 二人の様子を見ながら、 マネージャーがタバコに火をつける。 「……あいつらは、あいつらだしな。」 白い息が、夕焼け空に吸い込まれていく。 = 完 =