[ 小さな願い ] 「おいで」 そう言って、あなたは手をのばしてくれた。その手に私は擦り寄り、微笑むと……。 「大丈夫だからな。」 そう言って、あなたは私を抱き締めてくれた。 小さな思い、夢のかけら。思いが重なり、幾重にもなりながら、私はあなたを待ち続けた―― 今日は、久しぶりに恋人の仕事がない休日。隣りでいびきをかきながら寝てるけれど。 俺の名は清(しん)。全身真っ白な狼獣人。恋人の名は炎紫(えんじ)。同じく狼獣人。銀色の毛に、燃えるような赤い毛が、模様のように入っている。 ……ベットに寝てるから、俺はパジャマ、炎紫は裸だけど。 「炎紫、起きてよ。」 「あと5分……。」 そう言って、寝ぼけながら俺に抱き付いてきた。 「今日は炎紫がお休みだから、何処かで昼飯食べるんでしょ? 昨日言ってたじゃんか。」 「んー、まだ眠い。それに、急がなくたって大丈夫だから。」 炎紫は、背中から俺を抱き締めつつ、パジャマに手を入れてきて、身体を直接撫でてくる。 「……ならいいけど。」 「それじゃ、もう一眠り……と思ったけど、止めた。」 そう言うと、俺を顔だけ向かせて、優しくキスしてくれる。 「清を夢じゃなく、今、抱きたくなったから。」 「……バカ。」 赤くなる顔を背け、縮こまろうとすると、炎紫に腹を撫でられ、邪魔をされる。 「なにさ。」 「いいじゃん、清。減るもんじゃないし。」 「そうい……あっ。」 炎紫の指がパジャマに侵入してきて、俺のモノを扱いてくる。 「ず、狡いっ!」 「じゃ、いただきまぁす。」 そう言って、炎紫は本格的に弄ってくる。俺は快感に身を捩りながらも、嬉しそうに抱かれる。 「15時、過ぎちゃったなぁ。」 「誰のせいだと……。お陰で、ランチタイムが終わっちゃったじゃないか。」 「まぁまぁ。食べるのなんて、何でもいいじゃん。」 「よくないっ!」 仕方なく、ファーストフード店で昼飯を済ませて、近くの公園をぶらぶらする。炎紫は楽しそうに尻尾を揺らしてるから、まぁいいか。 陽も暮れてきて、夕日が目に眩しく映るようになった頃、炎紫がベンチに座る。俺も隣りに座る。 「あのさ、清。俺、清に……何が出来てるのかな。」 「何って……?」 そう言うと、炎紫は俺の肩に手を回す。俺は一瞬、人目を気にしたが、もうすぐ夜空に変わる頃。人影も無いので許した。 「結局、俺は清に頼りっぱなしだから。自分で、『おいで』とか言ったくせに。」 そう。夢の中の彼は、炎紫だ。あの時、俺には何も無かった。だからこそ―― 「いいんだ。炎紫が居てくれれば。俺は別に……。」 それだけ言い、炎紫に寄り掛かる。炎紫は恥ずかしそうにし、肩へ回した手の力が少しだけ強くなる。 「いつまでも、一緒に居ような。」 「うん。」 静かな公園を、心地良い夜風が吹き抜けた。