[ 己が為の戦 ] ゆっくりと。 自分が、自分じゃなくなっていく。 醜い獣に。醜い怪物に。 俺は結局、抗いきれなかった。 だから、彼にも手を掛けた。 他人の一生なんて、どうでもいい。 今となっては、自分でさえ。 徐々に蝕まれていく体は、 理性の殻を破り捨て、心に相応しい身体へと。 只の怪物へと成り果てていく。 変わりきる頃には、誰かが討伐に来るだろう。 俺がそう仕向けたのだから。 「……まだ、間に合う。」 彼は言う。俺のせいで、死の淵に立たされているのに。 「今更。もう戻れねぇよ。 俺はどちらにせよ、死ぬのだから。」 俺は彼を置いて、洞窟の更に奥へと進む。 運良く、彼が助かるのを願いながら。 最奥まで来たところで、何やら後ろが騒がしくなり、 振り向くと大勢の剣士達が追って来ていた。 「彼は……?まぁ、いい。俺にはもう、何も無いのだから。」 一度腕を振るうと、手の甲からは刃が突き出す。 「命、尽き果てるまで。」 そう言ったのは、彼だったか。 思い出が溢れ出し、涙が零れる。 「……こんなんじゃ、俺じゃないよな。」 涙を拭って、視線を剣士達へ向ける。 ――俺が、俺で在るために。 = 完 =