[ ちょっと大人な牛タン学園:1 ] 「……で、あるからして。この数式は……。」 「系羅(けいら)、系羅。寝てたらまた数学分かんなくなるよ。」 「ん〜。界杜(かいと)、あと5分……。」 右隣で講義机に引っ付いてるのは系羅。虎獣人で、僕の幼なじみ。今の毛色は白。最近流行ってる"染髪"屋さんで染めたみたい。僕らの場合は全身を染めるから、染色液に全裸で浸からないといけない。僕も系羅に勧められて、一度だけ行ったけど、知らない部屋に全裸でジッとしてるのが嫌だったから、換毛期が来た時に戻しちゃった。 「界杜、起こさなくていいわよ。どうせ起きても内容なんか聞いちゃいないんだから。」 「でも、戸羽先生に目を付けられちゃうじゃん。」 左隣で系羅に呆れ顔で授業内容をメモしてるのが都馬堵(とまと)。僕と同じ犬獣人の女の子で、僕と系羅の幼なじみ。 僕らは今、大学生。ついでに講義中。とは言っても、先生達も僕達もそのまま進学……というか、同じまま。元々大学まで一緒にある学園だから、当たり前なのかな。今授業してるのは戸羽先生。鳥獣人の格好いいんだけど、変わってる人。 ここは牛タン学園。僕らが居る学校で、あなたの居ない世界。 † 「……やっと放課後か。」 「系羅は寝てたけどね。」 「あとで界杜と都馬堵に聞くからいいの。戸羽先生、数学は難しく言い過ぎなんだよ。」 「十分分かりやすいと思うけど?ねぇ、界杜。」 「うん、都馬堵のノートで復習してるけどね。」 ちょっと苦笑い。僕も少しだけ、戸羽先生のだと分かんないとこあるし。 「界杜、今日はどうする?」 「ん〜、どうしよ。」 ゲームセンターにでも行こうか、ちょっと悩む。系羅とだと、夜まで掛かっちゃいそうだし。それはそれで楽しいけど、折角、社会人として働いてる米羅兄ぃが夕飯作ってくれるのに、勿体ない。 あ、米羅(べいら)兄ぃは、系羅のお兄さん。僕の両親は長期で海外に居て、研究員として働いてる。内容は……何か色々やってるから分かんない。だから僕は幼なじみの系羅と米羅兄ぃの家に居候させて貰ってる。大学生なんだし、一人暮らしも考えたことあるけど、二人と都馬堵に反対されたから、止めたんだ。"米羅兄ぃ"って呼び方は、昔から。もう馴染みすぎて直んない。 「界杜、ちょっと寄りたいとこあるんだけど、いい?」 都馬堵から誘われるの珍しいけど、何だろ? 「うん。3人で行く?」 「あっ、界杜と二人が……。系羅、ごめんね。」 「たまにはいいよ。」 ちょっと不機嫌な系羅を残して、都馬堵と帰る。あとで何か買って帰ろうかなぁ。そんな事考えながら都馬堵についていく。 「界杜、このお店。」 「……宝石屋さん?高そうだよ?」 都馬堵が気にせずに中に入ったから、僕もついていく。 「いらっしゃいませ。」 線の細い女性の豹獣人さんが、都馬堵と僕を奥に誘導する。 「少々お待ちください。」 それだけ言って、個室に僕と都馬堵を残してく。 「都馬堵、そろそろ教えてよっ。」 「…すぐ分かるから。」