[ くらやみ ] ぼくのまわりには いろんなものがある。 けど、ぼくはそんなのどうでもいい。 ぼくさえいればいい。 そらも、うみも、かぜも ぼくなんて、きにしてない。 いても、いなくても。 ぼくは、ちっぽけだ。 拙い字でそう書いた、 もう動かない弟のことを、 俺は抱きしめてやる事しか出来なかった。 † 看板に弟の名前が書かれていたが、 全く実感が沸かなかった。 弟は、俺の全てだったから。 葬儀は何事もなく終わった。 俺も形式だけの挨拶をした。 何を言ったかなんて、覚えてない。 「圭一(けいいち)、慎(しん)に挨拶しないの?」 「慎は、俺と一緒にいるからいいんだ。」 「……そう。」 1ヶ月した頃、ようやく俺も、 少しずつ理解が出来てきた。 慎は、俺とは別の世界にいるのを。 ――俺は、ひとりぼっちになったというのを。 † 「圭一、学校遅れるわよ。」 「あぁ。」 今更、勉強に意味なんてない。 ただ親が五月蠅いから行くだけ。 授業内容なんか頭に入らない。 「圭一君、変わったよね。」 同級生にそう言われようが、 俺にはどうでもいい。 「圭、ゲーセン行こうぜ。」 「俺はいいや。」 「ちぇっ、キャッチャーで欲しいのあったのに。」 UFOキャッチャーが巧くなったのも、 慎が居たから。今は見たくもない。 † 家に帰り、部屋に閉じこもる。 もう、俺が必要とされる事もないから。 あとは寝て、夢の中の慎に会えればいいから。 そして、俺の一日が終わる。 = 完? =