[ 夜の闇 ] 「……兄さん。」 屋根瓦の上に座り、月を見上げる銀狼に声を掛ける。 「今日も月が綺麗だぞ。」 そう言い、銀狼はまだ幼い弟を隣に座らせる。 「……俺は、師匠なら。いや、親父なら分かってくれると思ってたんだけどな。」 「昔、剣術の武者修行で世界中回ったって、自慢してたもんね。」 銀狼は何も言わず、自らの藍染めの和服に留めた、一振りの刀に手を掛ける。 「……本当に行くの?」 「あぁ、もう決めたんだ。俺も親父のように、世界中の剣豪達と、刀を交えてみたいから。」 「俺は連れてってくれないの?」 「お前はまだ若いし、危ない旅になるから。」 「そっか……。」 「でも。」 銀狼は、弟の方へ向いて肩に手を添える。 「……必ず帰る。帰ってきて、今度こそ、お前を護るから。」 「……うん。」 「だから、待ってて欲しい。」 弟が銀狼に抱きつくと、銀狼は優しく抱きしめる。 「待ってるからね、灯夏(とうか)兄ぃ。」 「あぁ。」 「……大好きだよ。」 「俺もだ、葉秋(ようしゅう)。」 夜の闇に紛れて、屋根の上で口付けを交わす狼二人は、兄弟の絆ともう一つの絆を確認しあうのだった。 = 完 =