不老不死の力を持った、竜の話。 ================================================================= 目を開けた時、俺は液体の管の中に居た。 目の前には研究者達の姿。機械を操作している。 暫くすると管から液体が無くなり、俺は生まれた。 ここは、交易によって栄えてる人間達の街。 人々が行き交い、街らしい賑わいも聞こえてくる。 久しぶりの街の雰囲気に、少し気分も明るくなる。 早々に宿を取り、必要な物を買い込む。 (……まぁ、こんなもんか。 この街には、どれ位居られるかな……。) そんなことを考えながら、軽く部屋で一眠りする。 俺はヴァイス。本当の名は「β−TYPE 015」 研究所から出て、もうそろそろ2000年になる。 あそこで教えて貰ったのは、 言葉と……俺自身が「不老不死」である事。 眠ったり、食べたりする必要も無いらしい。 まぁ、それでは面白みも何にも無いので、 俺はそうしないが。 身体自体は「本来の竜の雄」と何ら変わらないので、 子を成す事も出来るし、鍛えたりする事だって出来る。 この身体のお陰で、今まで色々な事もあった。 妻や子が居た事もあるが、もう二度と子は成す気は無い。 自分の家族を看取るのは嫌だからだ。 ヴァイスという名は……当時の妻に付けて貰った名だ。 俺は全く何も変わらないまま、昔も……今も生きている。 多くの国の言葉は覚えてるので、本当なら、 商人でも用心棒でもすれば、金は手に入る。だが、 どこかに留まろうとすると、この身体のせいで、 毎度の事のように、段々と人が寄り付かなくなる。 だから今はそうなる前に、次の地へと旅立つようにしている。 俺の事を知らない場所へ。そうやって旅を続けてきた。 研究者達が何の為に不老不死の俺を作ったのかは、 今となっては分からない。結果として、 俺以外に不老不死になれた者は、誰一人居なかった。 研究自体は、「成功」として研究は終わったのだが、 延命措置になっただけで、皆死んでいった。 俺もいずれ死ぬのかもしれない。 起きると、夕飯の時間になっていた。 食堂から呼ばれるほど寝ていたらしく、 謝ってから席につき、食事を摂る。 たわいも無い話をしたりし、早々に部屋に戻る。 (……さて、仕事は……っと) 買い物ついでに探しておいた、求人広告紙を吟味する。 力仕事や雑用は得意だが、用心棒や接客等は不向きなので、 それ以外のもので、寮がある所を探す。食事と宿の確保の為に。 いろいろ試してはみたのだが、 どれも中途半端な所までしか出来ず、仕事にならない。 特に、剣術、体術、銃術、魔法学、音楽に関しては才能0。 魔法に関しては、人の多い街で住んだり働く時に使う、 自分の姿を、竜人や人間にする魔法だけ。この魔法でさえ、 竜なのに魔力が全く無い為、何かしらの媒体が必要。 知識は長生きしてる分あるのだが、センスが無い模様。 機械を扱う事は可能だが、銃は的に当たった事がない。 (お、調理補助がある。行ってみるか) 行ってみると……思ってたより楽そうだった。 寮もあるらしく、料理長にも気に入られて、 即座に採用が決まった。 「ヴァイス、次の料理の準備っ!」 「はいっ!」 料理は人並みじゃないが、長旅をしているお陰で、 一応は出来るのが幸いした。 数年でそれなりの料理も作れるようになり、 副料理長になった。 「ヴァイス……頼みがあるんだが。」 「何でしょう?」 料理長に、幾つか写真を見せられる。 「お見合い、してみないか?うちの娘のケイと。」 「……すいません、ジャン料理長。  もう俺、結婚する気ありませんから。」 「まだ若いんだから、それじゃつまらないだろ?」 「はは……。ご厚意はありがたいのですが、  今は……ごめんなさい。」 「そうか……。」 料理長に俺が竜だという事や、 不老不死の説明する訳にもいかず、仕方が無いので、 丁重に断っておく。人間には『竜』も『不老不死』も、 好奇の対象になりやすいからな。 しばらくして……。 「ヴァイスさん、凄いじゃないですか!  あの料理長に認めて貰えたんですよ!?  しかも、新しい店を任せて貰えるなんて……。  ケイさんにだって……。」 「……ジャン料理長には感謝しているよ。  勿論、皆にも。ありがとう。」 「でも、ここまでしてくれてるのに……、  何で後3年で辞めるなんて言うんですか!?」 「………。」 本心なら、居たい。だが、いずれ 分かってしまうのだ。俺が異質な者だと。 「旅を……続けたいからな。」 「ヴァイスさん……。嘘ですよね、それ?」 嘘がバレててもいい。俺は一つの場所に長く、 居てはいけないのだから。 皆に迷惑が掛かる前に……ここを出なくては。 「ヴァイスっ!」 「……ケイか。」 3年が過ぎる頃……。旅の支度を始めていた時、 ケイが寮に様子を見にきていた。 「やっぱり……行くの?」 「ケイ……君にはもっと良い人が見つかるさ。」 ケイの方を向き、微笑む。 彼女は悲しそうな目をして、俯いた。 「ヴァイス……私……。」 「ケイ、ごめん。気持ちは嬉しいけど、  やっぱり……俺は行くから。」 「……私じゃ……駄目なの?」 「ケイ……。」 泣きそうになっているケイを、 どうすることもできず、旅の支度を続ける。今、ここで ケイを慰めると、俺にも心残りが出来るから。 「じゃ……行くから。」 「……また、いつでも帰ってきてね。」 「そうだな……。」 それだけ答え、俺は街を出た。 後々、俺は街を訪れる機会がたまたまあった。 だけど、それは100年後。ケイもジャンも居ない。 あのお店も無かった。違う料理店はあったが。 くまなく街を探せば、ジャン達の子孫が、 居るかもしれないが……辛いから、しなかった。 俺だけがいつまでも、今も、生き続けている。 ================================================================= ヴァイス …… (♂) 不老不死の力を持った竜。 ケイ …… (♀) ヴァイスが勤めてた料理屋の料理長の娘。人間。 ジャン …… (♂) ヴァイスが勤めてた料理屋の料理長。人間。