< 四、目覚め >================================================================ 目を覚ますと、涙が流れていた。軽く拭いてから、上半身を起こす。 ……夢の内容は覚えて無いが、何処と無く懐かしかった気がする。 傍らを見ると、巳紅はまだぐっすり寝ているようだ。 周りを見渡すが、今のところハールもフォイール達も見当たらない。 多分、何処かで会議でもしているんだろう。俺は軽く顔を洗った後、 飲み物や食べ物をあさりに、着替えて外へ出る。 (……やっぱり、俺と巳紅以外誰も居ないんだな……) 空っぽの受付を通り過ぎ、外へと出ながら思う。自動販売機も一応動いては居るようだが、 浪費する訳にはいかない為、止めておく。 昨日、俺と巳紅が『起きた』時には、携帯電話しか動いてる気配は無かったが、 よくよく調べてみると、生活に必要な衣・食・住関係の機械は、問題無いようだ。 明かりも付くし、温かい湯もある。後でハールが言っていた事だが、 『何か必要な物があったら、そこだけ時間を動かすから言って』だそうだ。 ……何とも都合が良いもんだ。流石無理矢理引き込んだだけある、と言いたかったが 何か余計な事をされるのも面倒なので、納得する事にした。 少し歩くと、コンビニを見つけた。スーパーもあったが、遠いので止めておく。 とりあえずパンや飲み物等を適当に二人分見繕ってホテルへと戻る。 部屋へと戻ると、巳紅は着替えを済ませていた。 「おぉ、飯っ♪飯っ♪」 「……随分元気だな。」 巳紅は背伸びして、袋をひったくり楽しそうに選んだ後、俺に投げてよこす。 「せめて、何か…ありがとうとか言えよ…。」 「ん〜?」 食べ始めていて、もう聞いてないらしい。まぁ、いいか。俺も腹が空いていたので、 残りのサンドイッチ等を頬張って食事する。 食休みするように少し横になっていたら、ハールが戻ってきた。巳紅と話をしている。 フォイール達もその話に参加しているようなので、 俺はもう少しゆっくりさせて貰う事にする。 (……あの夢は何だったんだ…) 少し思い出そうと、頭の中の記憶を手繰り寄せてみるが、何も出てこない。 大事な事な気がするのだが……手がかりが何も無い。唯一あるのは、『懐かしかった』感覚。 (そのうち、何かあれば思い出すだろ…) 一人そう納得して、巳紅達の方の話へ参加する。 ==力== 「あ、帆。どうやら、隣の町の辺りに居るみたい。」 「なるほど。で、どうやって行くんだ?歩きか?」 「電車は使えないからねぇ……」 「自転車じゃ、時間が掛かりすぎるぞ。」 そんなやり取りを巳紅としていたら、ハールとフォイール達が『何とか出来る』らしいのを 聞いた。どうやら『飛ぶ』らしい。……信じがたい事だが。 「私達が『ツバサ』になって連れて行けるよ。」 「バランスとかは気にしなくて良いよっ♪」 ……まぁ、放って置かれ、拗ねてるフォイール弟の事は良いとして。大丈夫なんだろうか。 ホテルの外へ出ると、指環が光り輝き、体が浮いていく。巳紅の方も同様に浮いていく。 「どっちの方なんだ?」 「あの山の向こうの辺りに、かすかに感じる。」 ハールが指差した方角に、俺達は向かう事にした。速度はある程度出せるようだが、 巳紅の方に速度を合わせつつ、段々と山の方へ向かっていく。 今気付いた事だが、どうやらこの『指環(腕輪)』の『力』というのは、 『想像力』次第で姿が変わるという事も、さきほどの一件で納得した。 フォイール達やハールは、まだ気付いてないのか言わないのかは知らないが、 どうも『武器』にもなるようだ。俺は『刀』などの方がイメージし易い為、 そのような形を取る事が多いみたいだが。構造は良く判らないが、 『武器』の形態を取る時には『何か媒介になる物質』が無いと駄目なようだ。 俺の場合は、『媒介』となったのは『水』……風呂のお湯だな。溺れたと思った時の あのお湯が、『貯蓄』され、指環の中に『ストック』されている。 巳紅の方はどうなのか判らないが、恐らくは……。 「……山、こ〜えた〜っ!」 巳紅の声で、意識が現実へと戻ってきた。山の麓を見下ろすと、港のある町が見えた。