< 五、白い竜 >================================================================ 「ハール、どこら辺か判るか?」 俺が問いかけつつ見ると、どうやら既に目を閉じて何やら唱えている。探し始めてるようだ。 「一応、『捜索』は高等技術らしいよ〜。僕は出来ないし♪」 そんなフォイール弟の話を聞きながら、しばし待つ。 「あっ、見つけた。あの辺りみたいだけど…何だか反応が微弱…」 ハールが人気のない港を指さす。思ったより広く、周りには障害物が無い。 出てくるなら好都合なので、急いで全員で港へ向かう。 「この辺りなんだけど……」 ハールが首を傾げている。どうやら、場所は特定出来たが位置が特定出来ないらしい。 近くに居るかもしれないので、警戒しつつ周りを見渡す。 (一竜目とは随分違うな……危険な奴なのか?) 一竜目は、大人しい奴だったので、何も知らない状態でも問題は無かった。 ただ毎回そのような事があるとは考えにくい。 場合によっては、巳紅を守る必要も出てきそうだ。 そんな事を考えながら、周囲をしばらく捜索するが……何も見つからない。 「場所は、確実にココなんだけど……」 「勘違い〜?」 「……当てにならないな。」 巳紅と俺に言われると、ハールは少し凹んだように項垂れる。その仕草が、 何とも『人間っぽい』ので、少し笑ってしまった。 「何か来る…!」 フォイール兄がそう言った瞬間、空から無数の光の矢が降ってくる。 咄嗟に巳紅を庇おうと俺は一歩前に出た……が少々遅かった。 「危ないっ!」 そう叫んだ瞬間、巳紅へと無数の矢が降り注ぐ…が、透明な紅い半球の壁に 光の矢は遮られる。 「何これ?」 巳紅もまだよく分かってないようだが、どうやらハールの仕業らしい。 その刹那、ハールとフォイール達は矢の方向へと飛ぶ。 光の矢の雨が止むと、そこには何も居なかった。 「厄介な奴みたいだな…」 そう呟き、俺も周囲を警戒する。……どれほど時間経ったのだろうか。 緊張の糸が切れそうになった頃に、ようやく二竜目の『竜』が空に姿を現した。 全身は白く、目は輝く黄色。比較的つるんとした身体のようだ。 両翼の付近には、さきほどの光の矢が無数浮いている。 (さて…どうしたものか…) ハールやフォイール達が光の矢を上手く避けながら、追いつめている様を見て、 一人少し考える。俺は巳紅は、空では届かない。まして、巳紅は『力』をまだ使えない。 『手伝って』とは言われたが…何か手伝える事はあるのだろうか。 俺や巳紅を守る『壁』を作りながら戦うハールやフォイール達の表情は険しい。 どうみても劣勢のようだ。段々とハール達の身体に傷が増えていく。 「帆……」 巳紅がこっちを見る。巳紅もその事が気になっていたようだ。 俺は、巳紅に小さく頷き、港の浅瀬へと走っていき、海に左手を軽く触れる。 その途端、指輪は碧く輝きだし、近くの水へと碧い光が伝わって行く。 交戦中の白い竜やハール達は、まだ気付いていないようだ。俺は、強くイメージする。 すると、左手に数本の『碧い短剣』が現れる。そして、俺はハール達の方へと走り出した。