< 九、巳紅 >================================================================== 「ん……。」 小さく巳紅の肩は、震えていた。俺は優しく肩に手を回して抱き寄せる。 二人でお互いを見つめながら、小さく微笑む。 「でも……。……ごめんね……。」 巳紅が微笑んだ後、小さく俺から離れる。訳が判らず見つめていると、 腕輪が赤く輝き始める。そして、腕輪をそっと俺に渡した途端、 巳紅の身体の色が変わっていく。 「……どういう事だ……?」 「あ、帆っ!『最後の封印』は、その子!」 ハールが叫ぶ。その途端、目の前に居た巳紅が『赤い竜』へと変貌していく。 「嘘…だろ……?巳紅……。」 「その子が、巳紅。……本来の姿の。今回の『封印』対象。」 戦闘態勢のまま、ハールが小さく呟く。フォイール達も俺の周りを守るように囲んでいる。 「何で……巳紅なんだよ……。」 「……『時空移動』という、『重罪』を犯してるから。だから……。」 「『時空移動』って何だよ!」 俺の叫びを余所に、ハール達は『赤い竜』と戦い始める。『赤い竜』は、三竜相手でも 余裕な様子で炎を自在に操っている。時には矢のように飛ばし、時には盾のようにして。 (……巳紅を『封印』するのか……?) 「帆っ!」 三竜と戦いながら、『赤い竜』が叫ぶ。巳紅の時の声のままで。 「帆、この子を『封印』しないと、また犠牲者が出ちゃうの……。だからっ!」 フォイール達が『赤い竜』を取り囲むように、両脇から挟みこんで交戦している中、 ハールが叫ぶ。 (……俺は……) どうしたら良いのか、俺は悩んだ。巳紅を『封印』するという事は、 勿論人間で言う『死』みたいなものだ。俺に巳紅を『封印』しろというのか……。 俺の心情とは裏腹に、指環と腕輪は激しく輝く。ハール達は、どうやら苦戦しているようだ。 どうしたら良いか判らずに、その光景を呆然と見つめる。 (俺は…………) 三竜と交戦して、戦いを楽しんでるかのような『巳紅』を見つめる。 (あれは、もう『巳紅』じゃない……?だが……) ……『封印』したくない。だが、『封印』しないといけない。俺は、腕輪を右手に付けて、 交戦している所へ近づく。 「……やっぱり、『封印』しないと駄目なんだよな……。」 「うん……。」 小さくフォイール弟が答える。その言葉を聞いて、俺は左手を空へとかざす。 細長い『碧い太刀』が宙から現れる。俺はそれを握って『巳紅』へと駆け出した。