< 十二、あの人に会うために >==================================================== あたしが帆に、初めて会ったのは、 生まれてから、5、6年の頃。 あの時は幼過ぎて、何も分からなかった。 「……アナタは、だぁれ?」 「僕? 帆だよ。」 「ふぅん……。 帆、何かして遊ぼ。」 そう言って、夢の中で帆と遊んだ。 いつしか、帆に会えるのを 楽しみにしながら、寝た事もあったっけ。 ……でも、いつの間にか、 帆は居なくなっちゃった。 大人になって、文献を調べてみたら、 あたしみたいな"竜"は、 子供の頃だけ、他の種族の夢に、 "行く"事が出来るみたい。 途中で行けなくなったのは、 多分……帆が死んだから。 竜の寿命は長いし、 人間だったら死んでてもおかしくない。 行き先が無ければ、"行けない"よね。 普通なら、思い出にしてるところだけど、 あたしは違った。 もう一度、帆に会って、 あの時にした約束を、 どうしても守りたかった。 だって、初めて……好きになった人だから。 「居たぞ! 奥に行かせるな!」 だから、あたしは帆にもう一度会う為に、 神殿の奥へ走り続ける。ここに、 帆の時間に繋がる"扉"がある。 結局、散々調べたけど、 "扉"があるとしか書いていなく、 抜けた先の情報は0。 でも、帆に会えるなら、何でもよかった。 追っ手を振り切った頃、"扉"を見つけた。 あたしは、開ける為の魔方陣を描き、 呪文を唱え始める。 「我が名は紅(くれない)。 "扉"を願いし者なり。 "時の扉"よ、 我を過去へと誘い賜え……」 「居たぞ! 行かせるな!」 ……やばい。間に合うかな。 「たとえ、この身が朽ちようとも、 たとえ、記憶が失われようとも、 我の願いはただ一つ。 ……帆の居る時間へ!」 その途端、扉は眩く光り、 開いていく。 「奴を止めろっ!」 あたしの背後に、神殿兵が迫る。 (いやっ! あたしは帆のところに行く!) 扉の先は、白い世界。あたしは走り出す。 扉が目前に迫った時、 背中に強い衝撃が走る。 「ここまでだ、コウ。」 "コウ" なんて呼ぶのは、 あいつしか居ない。 「葉(よう)……。」 今、あたしの胸元には、 葉の剣が、深々と刺さっている。 「俺が教えなきゃ、 こんな事にならなかったんだよな。 ……ごめんな、コウ。」 そう呟いて、剣を引き抜く。 「……あたしは、帆のところに行く。 葉にも……邪魔はさせない。」 振り向き、葉を見据えたまま、 扉へ後退りする。 胸から流れ出ている血が、 あたしにも致命傷だって分かる。 「コウ、止めろっ!」 「……ごめんね、葉。 あたしには、 やっぱり帆しか居ないんだ。」 葉が叫んだのと同時に、 あたしは光の中に消えた。 「はい、生まれたのは女の子ですね。 おめでとうございます。」 そう看護師が言い、 母親の隣りへ赤ん坊を移動する。 「……あなた、この子の名前決めた?」 「お腹の中に居た時から決めてたさ。 "巳紅"(みく)ってのはどうだ?」 「いい名前ね。」 扉の代償は、あたしの竜の力と、 記憶を『封印』する事だった。 今のあたしには不要だけど。 ……こうして、あたしは 帆の居る世界に、 人間として"生まれ"た。 のちに、帆と幼馴染みになる。