[駆け出しの旅人] 俺は旅華(りょか)。 今日は待ちに待った、 12歳の誕生日。 これでようやく、 俺は旅に出る事が出来る。 小さい頃から、物語の主人公に なってみたい憧れもあり、 何度も「プチ旅人」をして、 親に怒られてたっけ。 でも、もう違う。 今日からは、大人の仲間入り。 少しウキウキしながら、 旅支度を整えていく。 「ほんとに行くんじゃなぁ…」 「じーちゃんが、あれだけ武勇伝を語ってたら、 そりゃ行きたくもなるよ。」 苦笑しながら、祖父を見上げる。 「…じーちゃんが生きてるうちに、 帰ってくるよ。」 「簡単に死ぬ訳なかろう。 これでもワシは昔…」 「世界を救った英雄なんだろ? 分かってるから。 じーちゃんが出来なかった事、 俺はやってみるつもり。 じゃ、行ってくるね。」 後ろ手に、手を振りながら、 俺は家を飛び出した。 とりあえず、アテは帝都。 無駄遣いすると無くなるから、 歩いて向かう。 2日ほどして、到着。 野盗に狙われ無かったのは ラッキーだったけど。 早速手続きを済ませて、 中に入る。 「やっぱり違うなぁ…」 圧倒されつつ、 まずは職業斡旋場へ。 30分後、ようやく受付へ。 「どんな職を目指されてますか?」 「えーと…特に決めてませんが…」 「では、5番の窓口へ。 そちらで、職斡旋されてください。」 「はぁ…。」 何がなんだか分からないまま、 5番へ。 「適応が高いものから順に、 リスト化したのを渡しますね。 何かあれば質問してください。」 リストを手渡され、 待合室で見てみた。 ◎【狩人】 ○【冒険家】 △【魔法使い】 ×【戦士】 △【格闘家】 ○【商人】 ×【裁判官】 って。戦うのに向いて 無いのか、俺。 他には… ◎【竜使い】 …ん?なんだこれ。 「すいません。これは?」 「それは、"竜使い" (りゅうつかい)。 ドラゴンは御存じですよね? ドラゴンと共に、旅する人達です。 何かしらの任務を受けて、 旅する事が主ですが…」 「…これでお願いします。」 何か惹かれるものがあった。 きっと、この時から、アイツに出会うのが、 今思うと…決まってたんだろうな、って思う。 職斡旋も済ませ、身分証を手渡された。 【旅華(12)♂:竜使い見習い】 …これしか書いてない。あとは、 竜使いの訓練所のパンフレット。 受付の人達は慌だしく仕事をしてるので、 聞ける状況でもなさそうだ。 「…とりあえず、行ってみるか。」 まだ見慣れない帝都の道を、 たまに巡回している衛兵さんに聞きながら、 歩くこと数十分。 「…ここか。」 入口の大きな扉には、 竜に乗った騎士が描かれていた。 扉を入ってすぐ、受付らしき場所を 見つけたので、事情を説明し、身分証を渡した。 「…えーっと。見習いさんですね? 竜使い見習いの方は、 右奥の大広間へ向かってください。」 そう言われ、身分証を渡された。 大広間へ向かうと、 結構な人数の…200人くらいか? 人達が、列に分れて並んでいた。 「…あ、君はココの列ね。」 「あ、はい。」 言われるまま、左側の列に並ぶ。 動いてる気配は無いので、 このまま待ってれば良さそうだ。 しばらくして、 大広間の奥から、威厳たっぷりの 男の人が出てくる。 …勲章らしきものも、服にあるし、 恐らく、騎士長なのだろう。 「えー…新しく竜使いになった者達よ。 これから卵の選定を行ってもらう。 先輩方の後についていき、 自分のパートナーになる竜の卵を選んで貰いたい。 これが、諸君らが通る、第一関門だ。」 それだけ言うと、 騎士長は部屋から居なくなった。 (…卵を選ぶだけじゃないのか?) 納得がいかないまま、先輩に連れられて、 卵のある部屋へと向かった。 卵の部屋…どうやら【竜巣】(りゅうず)と呼ぶ場所は、 帝都に複数あるようで、 先輩によって、行く場所が違うらしい。 俺の先導をしてる方は、教会を目指している。 「…着いたぞ。こっちだ。」 そこは、教会の祭壇前。 先輩が何やら唱えると、 地下への階段が現れた。 「竜使いになった者達よ。 竜巣の場所は他言無用とせよ。 ドラゴンは非常にデリケートな生物だ。 だが、強大な力故に、 誤った使われ方をする事もある。 破った時には、命を代償にすると思え。」 言い終わった頃、 巨大な扉の前に着いた。 ゆっくりと開いた先には……藁に囲まれて、 沢山の卵があった。 「では、一人ずつ、交代で卵に触れてみろ。 何か感じたら、知らせるように。」 一人ずつ順に卵に触れていく。 …そして、俺の番。 俺は順番的に後ろの方だったので、 既に卵が決定してる者もおり…卵が決定せず、 職斡旋場に戻された者も居た。 戻された場合は、 他の竜巣に行くか、 翌年の卵選定になり、希望者は、 竜巣の場所を忘れる代わりに、 職選定をやり直せるらしい。 …で、俺は卵に恵まれ無かった。 やり直す気も無かったし、 他の竜巣をあたらせて貰う事にする。 ………結局見つからず。 半ば諦めかけた頃。 竜巣に居た先輩に言われた。 「…あれ?お前…何で卵が無いんだ?」 「全部回りましたよ…でも、無かったんです。」 「…じゃ、稀に居るアレだな。 "野生"のドラゴンじゃないと ダメな竜使いなのかもな。」 「…野生!?」 極稀に、帝都のドラゴン…飼われた、 というと語弊はあるが。 それでは相性の合わない人も居て、 そういう人は、野生のドラゴンの巣から、 卵を探さないといけないらしい。 普通は、傭兵などを雇って、 洞窟へと向かうらしいのだが…。 (…そんな金、持って無いな…どうする?) 先輩方に協力を仰いだが… "試練"だからダメだとか。 仕方が無いので、 野生のドラゴンの中でも大人しい、 "紫蓮"(しれん)という種族の竜が、 住んでいる巣を教えて貰った。 旅の支度を整えて、巣へと一人で向かった。 野生竜の巣。 "紫蓮"というのは、名の通り、 紫の体躯と蓮の花のような形の鱗をもった、 翼の無いドラゴン。鱗は背面側にのみある。 基本的に、人間と争わない、大人しいタイプ。 稀に恋に落ち、人と竜の間の"竜人"も 生まれる事があるらしい。 (やけに静かだな…) 慎重に奥へと進んでいく。しばらく進むと、 竜の咆哮と剣撃の音が聞こえる。 …様子がおかしい。 音のする方へ向かっていくと、 一人の人間と…黒い竜が対峙していた。 様子をみる限り、人間側が優勢。 黒い竜は…まもなく倒れた。 「……おい、ここは"紫蓮"が 居る洞窟じゃないのか?」 剣の血を払い、鞘にしまった後、 その人が口を開く。 「運が悪かったな。それは3ヶ月前までの話だ。 今は、"愚煉"(ぐれん)の住処だ。」 「愚煉……!?」 愚煉…凶暴な野生のドラゴン。 黒竜として、よく知られており、 見習いの俺では全く太刀打ち出来ない相手。 「…まぁ、どうやら、紫蓮以外にも居たようだが、 コイツに荒らされたみたいだな。 お前は早めに帰った方がいいぞ。」 「…あぁ、分かった。」 それだけ答えて、俺は出口へと向かう。 出口へ向かう途中、 何故か脇道が気になり、 覗いてみると……そこには卵があった。 「…愚煉の…じゃないよな?」 恐る恐る触れてみる。 すると触れた瞬間、周囲が光に包まれ、 一瞬、小さな白い竜が頭の中に見えた。 (…は?この卵が俺の…相棒?) 既に契約が済んだ、他の見習いに 言われていたのと同じイメージ。 どうやら俺の場合は、この竜らしい。 とりあえず、持ち帰ることにし、洞窟を出た。 「…白い竜?聞いた事無いな…」 騎士長に洞窟の経緯を伝え、先輩に言われた一言。 「気のせい…だったのか…?」 普通ならば何かしらの"色"を持った 竜のイメージが見える。"赤"、"青"、"黄"の "原色"に近いほど強く特性が表れるが、 他の色への弱さも強まる。 だから、"白"と"黒"は本来見ない色。 "黒"は愚煉だが、 この竜は、生まれた時から凶暴な為、 飼育するのは不可能だ。 とりあえず俺は、割り当てられた、 見習い用の部屋へと向かう。 見習いの部屋と言えど、 竜使いの部屋は、一人一室割り当てがある。 これは、竜同士の喧嘩や、 "暴走"を防ぐためだという。 竜は竜使いに慣れた後も、 不意に野生に戻る事がある。 その時に、"力が暴走"して、 周囲を…他の竜や竜使いを 傷つけてしまう事もあるのだとか。 ちなみに…育て親には、 卵が孵った際に、竜への耐性が 身に着くようで、大丈夫らしい。 ある意味、人間で言う"夜泣き"だと聞いた。 まぁ、俺の場合は完全に 野生のようだから、ソレは頻発しそうだ。 …大丈夫か?俺。 それから、3ヶ月経った。普通なら、 1ヶ月もしないうちに孵り、 "育児"…もとい、"育竜"しながら、 初期戦闘訓練が行われるのだが、 俺はまだ、出来ていない。 訓練後、夕食前に自室に戻る。 「…なぁ。早くお前が見たいよ。 どんな姿なのか…」 そう言いながら、いつも通り、 卵を撫でながら見つめる。 いろいろ想像はするが… 「おーい、旅華ぁ。夕食だぞー。」 「ああ、今行くー。」 最近仲良くなった、隣り部屋の 玲(れい)に呼ばれ、食堂へ向かう。 「旅華の竜はどんな姿なんだろうなぁ。 かなーり楽しみ。」 「玲のは…蒼竜だったよな?」 「うん。蒼竜(そうりゅう)のヒョウガ。 懐き始めたから、 目茶苦茶可愛いー♪」 「…だろうな。」 苦笑いをしながら答える。 故郷では、一人っ子だったようで、 かなり楽しそうだ。 雑談をしつつ食事を終え、 玲と部屋に戻る。 「あれ?ヒョウガはいいのか?」 「あぁ。ヒョウガは、今寝てるから、 大丈夫〜♪ それに、起きたら分かるし。」 玲はコンコンと壁をたたく。 …まぁ、隣りだし、大丈夫なんだろう。 「で、旅華のは??」 「んー…まだ掛かりそうな気もするな。 正直、よく分からん。」 「えー。せっかく来たのにー…。 ま、いいか。部屋戻るー。 ヒ・ョ・ウ・ガ〜♪♪」 そんな事をいいながら、 玲は部屋に戻っていく。 (玲なりに気にしてくれてるんだよな…) 実際は、"孵る"時に、竜使いは 二人以上居てはいけない。 誰が親か分からなくなる上に、 "暴走"した時の為の耐性が 付かなくなるからだ。 だから、玲はああやって、 立ち会うつもりは無いが、 励ますつもりで言ってくれてるんだろう。 たまにそうやって様子を見に来るし。 「…今日は早めに寝るか…おやすみ。」 卵を撫でてから、ベットに横になる。 …数分後。目を瞑ってウトウトしてた頃、 小さな物音がしたので起きると… 卵が僅かに光っていた。…触れてみると、暖かい。 「…とうとう生まれるか?」 独り言を呟いて、卵の様子をうかがう。 「…キュ…」 小さく鳴く声が聞こえた。俺は優しく卵を撫でる。 しばらくして、光が弱まった頃、 卵のてっぺんに穴が空き、徐々に卵が割れていく。 「…キュ。」 卵から出た顔に、見つめられたので、 俺は、声を掛けた。 「こんにちは……じゃなくて、 こんばんは、だな。よろしく、小さな相棒。」 生まれたばかりの白い子竜の頭を撫でると、 小さく鳴き、少し…嬉しそうだった気がした。 のちに、「ちょび」と名付けた。 [ 駆け出しの旅人 ] -完-